器物を育てる、ということ。

伝統的工芸品

昨日一昨日と、野口品物準備室の野口室長と共に、
販路開拓事業の一環で伝統工芸関連の企業さんをいくつか回っております。
五箇山で雨に降られて富山側に降りてこられなくなり
とにかく寒かったので本日は微妙に風邪気味な担当であります。。。
ところで初日の訪問先は
大寺幸八郎商店さん→高岡漆器さん→雅覧堂さん→MomentamFactoryOriiさん。
年代的にはまだ若旦那とお呼びしてよい層の皆さんですが
表現こそ違え、昨日口々に出て来たのが、
この「器物を育てる」というニュアンスでした。


例えば金属製品。
10円玉を思い出していただけばよいでしょうか。
新しい10円玉は、ピカピカしていて、色も明るく、とても綺麗です。
銅器製品なんかも、新しいものは色が綺麗で艶やかで、
金属らしい輝きを放っています。
ところが古くなって、それこそ今はあんまり見ない「ギザ10(円)」なんかになってくると
随分と茶色くなって、だいぶマットな色をして、
時にはどんな旅をしてきたんだと思うくらいくすんだ状態のものもありますよね。
やはり酸化をしていくので、どうしても色は暗くなっていきます。
だけども、どうでしょう?
新しいピカピカの10円玉より、古くなった10円玉の方が、
周囲に溶け込んで何の違和感も感じさせません。
金属製品は、鋳上がった瞬間から酸化していきます。
素材によって違いますが、銅や真鍮、銀などは、気がつけば黒っぽくくすんでしまいます。
手で触れば皮脂が付き、指紋の跡が残ります。
だけれども、触ったり、磨いたり、そうしているうちに、味わいのある、
周囲にも綺麗に馴染む、素敵な色ができてきます。
(※最初のツヤツヤ感を失わせないために、コーティングをして
 ずっと新しい風合いのままに仕上げているものもあります)
ただし、ただ無造作に時を経ていくだけでは、綺麗な色にはならないもの。
金属の色が、どう古びていくか。
美しく古くなる、それはその器物が、大切に扱われてきた証拠にほかなりません。
同じように、漆もまた。
塗り上がったなりの漆器は、傷もなく、ツヤツヤしています。
ほんとの塗り立ては、まだほんのり漆液の香りもします。
(かなり敏感な方は、その状態だとまだカブレの危険があるかもしれませんね)
その後何年も使っていくと…徐々に色が変わってきます。
それこそ日に日に変わっていくので気が付かないかもしれませんが、
漆という樹脂の特性上、だんだんと色が変わっていき
漆にしか出せない独特の色に落ち着いていきます。
その過程でもちろん小傷がついたりすることはあるかもしれませんが
長く大事に使った証の色は、多分漆が複層だということにもよるのでしょう
深くて美しい色をしています。
器物を育てる、年代を経て美しい器物がそこに在る、ということは
その器物を大切にしてくれる人がいたからこそ。
また、大事にしてもらえるほどの器物を作る人がいたからこそ。
なんだか脈絡がなくなってきましたが
いいものを、大事に使う文化の大切さ。
もちろんそれを、作り手・売り手の側として、お客さまにも知っていただきたいという願い。
30代、40代の皆さんの中にも、しっかり根付いているんだなぁと感じた一日でした。